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細菌にまつわるパリからのすてきな贈り物「BCG」(1) 人間到る処バイキンあり(6)

大人の健康情報

望月吉彦先生

更新日:2016/11/28

「人間(じんかん)到る処“バイキン”あり」ただし例外もあり

また感染のお話に戻します。お付き合い宜しくお願い致します。
あまり、どこにでもバイキンがいると思うと滅入ってしまうかもしれませんね。人体の中、至るところにバイキンがいることは以前にもお話しました。ただし、例外もあります。どこだと思いますか?それは尿路系です。尿路系とは、尿を作っている腎臓から、尿が出る尿道口までの経路のことを指します。この経路には基本的にバイキンはいませんし、尿は基本的に無菌です。
以前、「飲尿療法」というのが流行りました(?) 怪しい治療で、尿を飲めばガンも治るというモノでした。勿論、治るわけがありません。
この療法を唱えた医師は元軍医でした。第二次大戦に従軍しました。当時は点滴などありません。南方の戦地でいつも飲める水が調達できるわけではありませんでした。そういうときに飲尿療法を行って効果があったのです。尿は無菌でしかも電解質を含んでいるので、点滴代わりに使ったのですね。尿を飲むことで、脱水状態や電解質バランス治療に効いたかもしれません。戦争のような特別な状況での使用は、理にかなっていると思います。私も「アリ」だと思います。発想は面白いですね。しかし、それを現代の日本に持ち込むのは如何なモノかと思います。以前、ヨットが転覆し、約1ヵ月、6人が漂流し1人だけ助かったというニュースがありました。助かった1人は尿を飲んで凌いでいたとありますから、戦争と同じくそういう極限状態に置かれた時に(置かれたくはないですがね)、尿は無菌で電解質も含んでいて飲んでも問題は無いという知識ぐらいは持っていると良いかもしれません。

志賀潔を世界的に有名にした「赤痢菌」の発見

さて、今回は細菌にまつわる「パリからのすてきな贈り物」です。その贈り物とは、細菌学者「志賀潔」がパリから持ってきたモノのことです。今も現役で使われています。それはBCGです。

BCGの話の前に志賀潔の話をしましょう。彼を世界的に有名にしたのはなんと言っても「赤痢菌」の発見でしょう。
赤痢菌の学名は「Shigella:シゲラ」です。志賀の名前をとって命名されています。日本人の名前が付いている細菌はほかにもありますが、世界で誰でも知っている細菌で日本人の名前が付いているのは赤痢菌くらいです。細菌性赤痢の病名は「Shigellosis:シゲローシス」です。勿論、志賀からの命名です。

病名に名前が付いたり、細菌に名前が付くと医学の歴史に残るので名誉なことです。
志賀が赤痢菌を発見したおかげで、赤痢の診断が正確にできるようになり、多くの人が助かります。病名が解るのが治療の第一歩です。

赤痢などもう昔の話だと思っている方も多いと思いますが、2015年4月5日にアメリカのアメリカ疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDCと略)から緊急レポートが出ました。題は「A drug-resistant form of Dysentery has begun to appear in the U.S. The highly contagious bacteria, Shigella, is resistant to Cipro and has caused outbreaks in several states this year, CDC reports. 」
このレポートを要約すると、「アメリカでは毎年50万人が赤痢に罹患している(注:世界中では年間1億人が罹患し、60万人が死亡している)。そのアメリカでシプロキサン耐性赤痢菌が増加しており、アウトブレークを生ずるかもしれない。」というレポートです。
当たり前ですが、志賀潔由来の“ Shigella ”が菌名として使われています。
赤痢にはシプロキサンという抗生物質が良く効きます。下痢患者さんが多いある国では、赤痢による下痢かどうかの診断を待っていると下痢で死亡してしまうかも知れないので、医師の処方箋無しにシプロキサンが購入できます。下痢というと何でもシプロキサンを投与するので、そのために耐性菌ができてしまったのだろうと思われます。このCDCレポートでも危惧しています。難しい話です。先進国では下痢の患者さんに、便の細菌培養も行わないで、抗生剤を投与するなどありえないですね。赤痢も少ないし……

志賀潔の顔写真

これが志賀潔の顔写真です。
戦争中に妻を病死で、長男は戦死、三男は戦後すぐに結核で死亡、空襲で一切の財産を失い、郷里仙台の廃屋のような草屋しか志賀には残されませんでした。そこで、文字通り赤貧の生活を余儀なくされます。その草屋で残った次男と野菜を作ったりしていました。
メガネの補修も儘ならず、紙で補修しています(左側)。後ろの背景は解りづらいかもしれませんが、壁を新聞紙で補修しています。なんだか可哀想ですが、晩年に書かれた志賀潔自伝を読むと、

『近隣の小学生から「先生は教科書に載るような偉い人なのに、どうやって収入を得ているの?」と無邪気に聞かれて戸惑った。』
『色々とあったが、自分は幸せだった。ほかの人が発見してもおかしくなかったのに、赤痢菌を発見することができた。それも26歳のことだった。それだけで一生が過ぎたようなモノだった。』
『清貧の学者と言うが私は赤貧だ。科学者にもある程度の収入を保証せよ。』

と淡々と書かれています。なんだか胸が詰まるような台詞です。
今は、文化功労者、文化勲章受章者には年額350万円の年金が支給されます(昭和26年〜)ので、ここまで赤貧洗うがごとしの生活にはならないと思います。それはともかく、志賀潔の自伝は冷徹な科学者の目で書かれているのでとても面白いです。一読をお勧めします。

志賀潔がパリから持ってきたモノ「BCG」

パリ

さてパリからの贈り物の話です。その志賀潔が1924年パリで開催された赤痢に関する学会に出席。その際にパリのパスツール研究所から持ち帰ったのが今も使われているBCGです。「Tokyo172株」と言います。これがパリからの贈り物です。172代に渡って培養されたので172です。現在も使われています。

BCGは懐かしいと思われる方も少なくないかもしれませんね。小さい頃、「はんこ注射」や「スタンプ注射」と呼ばれるBCGを受けた方も多いと思います。これは結核予防ワクチンです。さてBCGってなんでしょう?
BCGの正式名称はフランス語で“ Bacille de Calmette et Guérin ”の略です。Bacille は桿菌(棒状の細菌)のことです。日本名は「カルメット・ゲラン桿菌」です。フランスパスツール研究所のカルメットとゲランがウシ型結核菌(Mycobacterium bovis)の培養を繰り返して作製した細菌です。BCGとは本来ならこの細菌名なのです。
しかし、一般的にBCGというとこの菌を利用して作られたワクチンを指すことの方が多いですね。
このBCGワクチンですが、あまり知られていない使い方があります。結核予防に使われるのは勿論ですが、膀胱癌治療に用いられているのです。糖尿病に効くかもしれないという研究もあります。川崎病の診断になるという研究もあります。要するに今でも現役バリバリのお薬です。
今から100年近く前、パリのパスツール研究所のカルメットとゲランから(無償で)世界中の研究者にプレゼントされた細菌が今も使われているのです。凄い話です。ちなみにこのパリからの贈り物を早期に受け取ったのが、日本、ブラジル、ソビエト連邦、ルーマニア、スウェーデンです。志賀潔のおかげで日本はごく早期からBCGを使うことができたのです。今ならお金が絡んだりするので大事な細菌を簡単に渡すなど考えられないですね。

  • 1.BCGに関するあれこれ
  • 2.0-157の毒素=赤痢菌が排出する志賀毒素だった!
  • 3.そもそもなんで私のような外科医が赤痢や志賀潔に興味を持つようになったか?あるいはなぜBCGの勉強をしなければならなくなったか? 

など、この話はまだまだ長くなるので、次回以降に続きます。

余談:

パリ発で「ゲラン」と言うと一般的には「夜間飛行」「ミツコ」等で有名な香水メーカーの方が有名ですが、人類への貢献と言うと、カルメット、ゲラン菌の「ゲラン」でしょう。

【参考文献】

  1. 志賀潔自伝:日本図書センター:ある細菌学者の回想
    他 多数。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-1-1 浜松町ビルディング1階 プラザ 111 内
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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