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「ワルファリン」それは『セレンディピティ』から生まれた抗凝固薬(1) 冠動脈疾患(12)

メディカルコラム

望月吉彦先生

更新日:2016/12/26

このページには、医学的な資料として「心臓手術時の画像」がありますので、ご注意ください。

凝固系に作用するお薬「ワルファリン」

冠動脈疾患シリーズ(8)(10)は抗血小板作用を持つ様々なお薬についてお話しました。今回は凝固因子による血液凝固(けつえきぎょうこ:血液が固まること)を阻害するお薬について説明したいと思います。

すり傷や切り傷を負ったとき、血が出ます。これを出血といいます。よほど大きな傷でなければ次第に出血は止まります。これを止血とか血液凝固と言います。要するに血液は凝固(固まること)して血が止まるのですね。
血液凝固には(8)(10)でお伝えした「血小板」と「凝固因子」の2系統がはたらくことで機能します。この機能が障害されると、血が止まりませんので、非常に怖いことになります。

凝固因子は12個あります。これらの因子が身体の中で作られない血友病という病気があります。血友病Aと血友病Bがあります。Aは第Ⅷ因子欠乏、Bは第Ⅸ因子欠乏です。Ⅸは「クリスマス因子」とも呼ばれます。「クリスマスさん」という患者さんの名前から名付けられたのです。そのため、血友病Bはクリスマス病とも言います。なお、この論文が掲載されたのはBritish Medical Journalのクリスマス号です(注:参照)。
血液製剤でこれらの因子を補わないと死に至る出血を生じます。いわゆる「薬害エイズ事件」は、血友病治療のために投与された血液製剤の中にHIVウイルスに感染した血液より作られた血液製剤が混ざっており、それを使ってエイズが感染したのが問題になった事件でした。
学生の頃、この12個もある因子を覚えるのは結構大変でした。Ⅵ番が欠番で、番号はⅠからⅩⅢまであったりと…(初めて勉強していた頃が懐かしいです。ⅩⅡは「ハーゲマン因子」でこれだけはすぐに覚えました。)
この凝固因子のうち、Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ番が作用するためにはビタミンKが必須です。このビタミンKに拮抗する作用(ビタミンKの作用を減弱させる作用)を持つのが「ワルファリン」でした。(「ワーファリン®」とよく言われますが、これは商品名です。今回は、一般名である「ワルファリン」を使います。)

つい最近まで、凝固系に作用するお薬は「ワルファリン」しかありませんでした。「ワルファリン」は古い薬ですがとても良く効きます。ただし、抗血小板薬のように狭心症や心筋梗塞の予防にはなりません
では、どういうときに使うかというと、心筋梗塞をおこすと心筋の動きが悪くなり、そういう箇所は血液が滞留するので血栓ができやすくなります。その血栓形成予防に使います。また心房細動を生じるときにも高率で心臓内に血栓ができやすくなります(正常な脈の状態に比して、10数倍危険率が高くなります)が、ワルファリンを適切に服用すれば、血栓ができる率は劇的に減少します適切の意味は次回お伝えします)。

以下、医学的な資料として、「検査画像」、「摘出時の手術画」、「摘出した血栓画」がありますので、ご注意ください。
図1は、心臓の中(左心室)にある血栓(血のかたまり)です。この血栓が心臓の中から出て「頭の血管」をはじめとする「重要な動脈」に詰まると「動脈塞栓症」を生じます。それを予防するために、図2のごとく、手術をして、左室を切開して「血栓」を取り去る必要があります。ワルファリンはこういう血栓ができるのを予防してくれます。

図1:心臓エコーの画像
図1:心臓エコーの画像:
心筋梗塞後で動きが悪くなった心筋に付着した血栓を示します。
左心室内に丸い心臓内血栓が見えるのがおわかりになりますでしょうか?

図2:血栓を取り除く手術
図2:この血栓を取り除く手術の画像です:
ピンセットの先にあり赤黒く見えているのが図1の血栓です。

図3:取り出した血栓
図3:取り出した血栓:
これが血流に乗って頭に飛ぶと脳梗塞を起こします。

「ワルファリン」にまつわる発見は面白いのでちょっと詳しく書きますので、おつきあいください。

牛が死亡するほど出血する原因は?

ときは1920年代の北米の話です。当時、牛の餌にするためヨーロッパから輸入したスイートクローバーという干草を使い始めていました。スイートと言うくらいですから甘い干し草で、牛たちも好んで食べていたそうです。
あるとき、冬に備えてサイロに保存していたたスイートクローバーを食べた牛が次々に、死んでしまいました。解剖すると体中に出血を生じていました。餌を別の飼料に変えると、そういうことは起きませんでした。

1933年2月ウィスコンシン州の農夫エド・カールソン(Ed Carlson)は、自分が飼っている牛がスイートクローバーを食べては次々に死んでしまうので困ってしまい、「死んだ牛」と「食べたスイートクローバー」と「固まらない血液」を300kmも離れた獣医師がいるウィスコンシン農事試験場に持ち込もうとします。しかし、生憎、この日は猛吹雪で、週末だったこともあり獣医師がいる事務所は閉まっていいたのです。たまたま、その近くにあった化学事務所が開いていて、そこへ牛やクローバーや血液を持ち込むことになってしまいました。それが、人類にとってとてもラッキーなことだったのです。またかといわれますが、そう、『セレンディピティ!』です。

この化学事務所に居たのは「カール・ポール・リンク」という熱心な化学者でした。彼は途方に暮れている農夫カールソンに自分が何もしてあげられず、とても気の毒に思ったのです。それで「牛が出血する」、それも「死亡するほど出血する」事と、「スイートクローバー」との関係を解明してあげようと思い立ったのです。名前にスイートと付くくらい甘いクローバー(草)です。まずここから調べ始めてみると、その甘さの原因物質はクローバーに含まれる「クマリン(coumarin)」という物質でした。

「カール・ポール・リンク」はそこから研究すること7年!ついに“スイートクローバーが発酵すると「クマリン」が「ジクマロール(Dicoumarol)」という物質に変化すること”を発見します。そして「ジクマロール」がビタミンKに拮抗して、血液中のⅡ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ番の凝固因子の作用を減弱させて、体内出血を引き起こすことを解明したのです。雪の日に農夫が農事試験場に来なければ、そしてかたわらの化学事務所が開いてなければ、そしてそこに熱心な化学者リンクがいなければ、この偉大な発見は無かったかもしれません。

「ジクマロール(Dicoumarol)」は当初、殺鼠剤として使われます。ネズミに「ジグマロール」から合成した物質を食べさせると腹腔内で出血をおこして、ネズミは死んでしまうのです。
この物質は「ワルファリン(ワーファリン®)」と名付けられます。英文名は "Warfarin" です。" Wisconsin Alumni Research Foundation(ウイスコンシン・大学研究基金同窓会)" に由来します。残りの " rin " はクマリン(coumarin)の " rin " からきています。武器を意味する " warfare " をかけていると思います。この同窓会が「ワルファリン」の特許を持っていたのですね。莫大な資金をこの特許から得ました。「ワルファリン」は今でも殺鼠剤として使われていますが、最近、「ワルファリン」を食べても死なないネズミが出現し、スーパーラットと称されています。ネズミも進化するのです。

次回に続きます。

注:British Medical Journal1952年、クリスマス特別号に載ったクリスマス病に関する論文です。
「Christmas disease: a condition previously mistaken for hemophilia. Br Med J. 1952 Dec 27;2:1378-82. 著者:BIGGS R et al.」
British Medical Journal.は毎年クリスマス特別号を出します。この特別号には、珍しい症例、毛色の変わった研究の論文を載せています。しかし、クリスマス病に関するこの論文はクリスマス号特有の“少し変わった”論文ではありません。たまたま、クリスマス号に載ったことになっていますが、当時のBritish Medical Journalの編集者が「狙った」のではないかと愚考します。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-1-1 浜松町ビルディング1階 プラザ 111 内
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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