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スギ花粉症の発見と現在の治療について 花粉症(1)

メディカルコラム

望月吉彦先生

更新日:2017/4/17

ややスギ花粉の飛散のピークは越えてきましたが、スギ花粉症でお悩みの方も多いかと思います。今回はこの「花粉症」についての話題をご紹介しようと思います。

スギ花粉症はどこで見つかったか

「スギ花粉症」ですが、一体いつからあるのでしょうか?答え:「1964年」です。
スギ花粉症はもっと古くからあったのですが、見つかったのが1963年、発表されたのが1964年です。「参考文献1.」が日本初の「スギ花粉症」を報告した論文です。論文の筆者は、当時の東京医科歯科大学耳鼻咽喉科学教室教授堀口申作先生と教室員の斎藤洋三先生です。斎藤洋三先生が、古河電工日光電気精銅所付属病院(今はありません)の耳鼻科に勤務していた時に発見したのです。当時のことは「文献2.」に詳しく書かれています。なお、論文の筆頭著者が堀口申作先生となっています。この辺りの経緯が、よくわからなかったのですが「文献3.」に斎藤洋三先生自身が「当時の教室(筆者注:医科歯科大学の耳鼻科教室のこと)の慣習で筆頭著者は教授になっている」と書かれています。これを読んではじめて、実際に「スギ花粉症」を発見したのは日光に赴任していた齋藤先生だったことがわかりました。私が凄いなと思うのは、斎藤先生が日光に赴任したのは1963-64年の、たった2年間だけだったことです。この2年で、きちんとした症例検討、研究を行い、病名まで名付けてしまったのことです。普通ならあり得ないような話です。

斎藤先生は、日光赴任前、欧米諸国では「枯草熱(hay fever)」や「花粉症(pollinosis)」として広く知られていた「花粉によるアレルギー性疾患」が日本でも見つからないかと考えていたそうです。1963年3月、たまたま日光に赴任したところ、欧米諸国で報告されている花粉症(pollinosis)に似たような症状をもつ患者さんが、日光にたくさんいることに気付いたのです。そして「花粉症」に間違いないと思われる21例の患者さんの検査を精密に行っています。この時点で、なんの花粉がこの花粉症をおこしているかは不明でした。つまり、原因物質=アレルゲンは不明だったのです。最初に行ったのは、原因と思われる花粉の同定です。斎藤先生は、日光に大量に飛散している黄色い花粉を採取し、顕微鏡で見て「文献4.」にある『日本植物の花粉』を参照して、この花粉が「スギ花粉」であるのを確かめています。この辺りが普通の人とは違いますね。このスギ花粉こそ、花粉症を起こす原因物質=アレルゲンだと推測して、多種多様な検査を行いスギ花粉が日光の“花粉症”患者さんの“アレルゲン”であることを確かめ、スギ花粉による“花粉症”を「スギ花粉症:Japanese Cedar Pollinosis」と名付けたのです。
それまで、「スギ花粉症」という病名の病気は無かったのです。隔世の感がありますね。繰り返しますが、2年間でここまで成し遂げられたのは驚異的だと思います。

さて、その診断や治療はどうすれば良いのでしょう。スギ花粉症に限って考えてみます。

花粉症の診断や治療はどうすれば良いのか

まずは診断です。通常は症状と症状の発現時期から診断は容易です。スギは1月から花粉を飛ばします。その頃から症状が出ること、スギ花粉が飛ばなくなる5月上旬に症状が急速に良くなることなどで、診断は容易です。しかし、スギ花粉症の方はヒノキにもアレルギーがあることが多く、ヒノキ花粉飛散が終了する5月下旬まで、花粉症の症状が続くこともあります。スギ花粉とヒノキ花粉は似ていますので、スギ→ヒノキと連続して「花粉症」が続く場合も多いのです。採血をして診断を付けることもあります。元々スギやヒノキで花粉症を発症する方はスギやヒノキに対するIgE抗体が高値です。この値を測定すれば良いのですね(齋藤先生は、スウェーデンのファルマシア社とスギ花粉症のRAST検査キットを開発しています。この話は、次号のお話とも関連します。)。
ほかにも「パッチテスト」など、色々な診断方法があります。しかし、病歴が一番大切だと思います。

診断がついたとして、治療はどうしたらよいのでしょうか?いくつか紹介します。

  • 1. 治療の第一は、スギ花粉が目や鼻に入らないようにすることです。
    防花粉眼鏡、防花粉マスクを装着するのも良いでしょう。とはいえ、簡単では無いですね。一番手軽なのは、鼻腔(鼻の中)や眼の下にワセリンを塗布することです。ワセリンがスギ花粉を吸着し、奥まで(つまり粘膜がある箇所まで)届かないようにするのです。防花粉眼鏡、防花粉マスクとワセリンを併用すれば、かなり楽になると思います(注:スギ花粉の分子量は約4万、ワセリンの分子量は280程度です。分子量が小さい物質ほどアレルゲンとはなりにくいのです。ですからワセリンアレルギーは稀です)。
  • 2. 「抗ヒスタミン薬」、「抗ロイコトリエン薬」、「ステロイド」 による薬物療法
    鼻粘膜、目の粘膜にある肥満細胞から放出されるヒスタミン、ロイコトリエンがさまざまな症状(鼻汁、目の痒みetc.)を引き起こします。 ですから、一般的に抗ヒスタミン薬が、花粉症治療に多用されます。それでも効き目が悪いときは抗ロイコトリエン薬を併用します(抗ヒスタミン薬がなぜ効くかについては、後述します)。それでも症状が軽減しないなら、ステロイド剤を使います。ただし、ステロイド剤の長期投与は副作用が多いので注意が必要です。
  • 3. 減感作療法
    減感作療法は古くから行われていました。少量のアレルゲンを体に投与して、アレルゲンに体を慣らしてしまうのです。日本では、古来、漆職人になる人には少量の漆を子供の頃から、舌の下に入れて「減感作療法」を行っていました。経験的に少量のアレルゲン(この場合は漆です)を使えば、今、行われている減感作療法と同様な効果があることがわかっていたのですね。最初にこのことに気付いた人の記録はありませんが、凄い発見だったのだと思います。スギ花粉症の減感作療法も同様です。少量のスギ花粉を皮下注射あるいは舌下投与して減感作療法を行います。
  • 4. 星状神経節ブロック
  • 5. 鼻粘膜のレーザー焼灼
  • 6. 漢方薬による治療:「小青竜湯」が有名です

ほかにもさまざまな治療方法があります。
それだけ、困っている方が多いのです。花粉症の症状の出方には、(1)個人差 (2)花粉の飛散量が大きく関与するので、これを行えば、絶対に治るという治療法はありません。

花粉症治療で一番多く使われ治療薬が「抗ヒスタミン薬」です。以前、β-ブロッカーを開発したブラック先生のことをご紹介しました
ブラック先生はβ-ブロッカーの後にH2ブロッカー(シメチジン)の開発にも成功し、この両薬の開発に対してノーベル賞を受賞しています。そのH2の“H”はヒスタミンを表します。スギ花粉が鼻や目の粘膜に到達すると、肥満細胞に付いているIgE(「免疫グロブリンE」というタンパク質)にスギ花粉が付着し、肥満細胞から「ヒスタミン」が遊離されます。このヒスタミンが、鼻汁、クシャミ、目の痒みを生じます。ヒスタミンが遊離され、体内でさまざまな反応が生じますが、ヒスタミンはレセプター(受容体)と結びついてはじめて、その効果を発揮します。
ヒスタミンレセプターには4種類あることがわかっています。

H1:平滑筋、血管内皮細胞、中枢神経系に分布します。

H2胃壁細胞、平滑筋、リンパ球、中枢神経系に分布、特に胃壁細胞のレセプターは胃酸分泌促進作用をもたらします。ブラック先生の開発したH2ブロッカーはここに作用し、胃酸分泌を抑制します。

H3、H4、この残りの二種の両者については未だよくわかっていません。
鼻、目に多く分布するのはH1レセプターです。H1レセプターをブロックするのが、いわゆる「抗ヒスタミン薬」です。歴史的にH1レセプターの方が先に見つかり、お薬として使われていたので、H2ブロッカーは、あえて「H2ブロッカー」と記されます。
H1ブロッカーの開発者は、イタリア人薬学者のダニエル・ボベット先生(Daniel Bovet、1907 -1992)です。ボベット先生はインディオが毒矢に使っていたクラーレを麻酔薬として使えるようにしたこと(筋弛緩剤)及びクラーレの化学合成にも成功、後にアレルギーの治療薬である抗ヒスタミン薬(H1レセプターブロッカー)の開発にも成功し、1957年ノーベル医科生理学賞を受賞します。つまり、ヒスタミン関連薬ではH1ブロッカーとH2ブロッカーの2回、ノーベル賞が出ているのですね。それくらい、ヒスタミン関連薬は、体に効くと言っても良いでしょう。

上述の如く、H1レセプターは中枢神経系にも多く分布します。初期に開発された抗ヒスタミン薬は中枢神経にも作用するので、眠くなることが多いのです。今でも多くの抗ヒスタミン薬は「服用する際、車の運転は禁止」と薬局方に書かれています。私が、今多く処方するのは中枢神経系にあまり入らない(=脳血液関門(BBB)を通過する量が少ない)抗ヒスタミン薬です。中枢神経系にあまり入らない抗ヒスタミン薬は眠くならないからです。昨年も、新たに2種類の「中枢神経系にあまり入らない」タイプの抗ヒスタミン薬が使えるようになりました。眠くならず、効き目の良い薬がたくさん使えるようになると良いですね。

無花粉スギ「はるよこい」

花粉が飛ばなければ、花粉症にはなりません。今のスギ花粉症の原因は太平洋戦争後、住宅建設のために大量に植林された杉から大量の花粉を飛散させていることが原因です。農水省の発表によると“無花粉スギ”が開発され、実用に供されています。「はるよこい」という品種です。良い名前ですね。平成16年に開発されてすでに数万本が植林されています。
この「はるよこい」の発見はセレンディピティです。富山県農林水産総合技術センター森林研究所でスギ花粉の定点観測をしていたある神社の境内で、平成4年、偶然に「無花粉スギ」が見つかったのです。そして、それを改良した無花粉スギが「はるよこい」です。しかし、普及するには何十年という時間がかかりそうです。今、日本で木材として使われている杉の8割は輸入材木ですので、今、花粉を盛んに飛ばしている国内のスギは「売れない=切り倒されない」可能性が高く、切り倒されないなら「はるよこい」も植えられないのです。ですから、「はるよこい」のような無花粉スギが多用されて、スギ花粉飛散が減るまでには時間が罹りそうです。難しい話です。

図1、2ともに富山県農林水産総合技術センター森林研究所のHPからの引用です。
スギ花粉から逃れる方法として、スギ花粉が飛散する時期だけ、外国に移住するか、杉が道南以外には自生しない北海道に移住するのも一つの方法ですが、非現実的ですね。
と言うわけで、さまざまな治療法があります。治療タイミングの問題もあります。例えば、抗ヒスタミン薬は花粉が飛散する前から服用していると、とても良く効きます。花粉症で困っている方はご相談ください。

余談:日光は世界最長の杉並木で有名ですが、あの杉並木の杉は300-400年以上経った老木です。ですからスギ花粉を大量に飛散させている訳ではありません。斎藤先生が「スギ花粉症」を発見し命名したのが日光市の「花粉症」だったので日光には花粉症が多いと思われがちですが、関東各地と比して格段に多い訳ではありません。スギ自体は山村に多いのに、花粉症で苦しんでいる人は、大都市やその周辺に多いのです。その原因として、アスファルトが原因とする説(土なら花粉を吸着、アスファルトは吸着しないので舞い上がる)や排気ガス説などがあります。今でもよくわかっていないようです。

【参考文献】

  1. 堀口 申作、斎藤 洋三:「栃木県日光地方におけるスギ花粉症Japanese Cedar Pollinosisの発見」アレルギー 13(1-2), 16-18, 1964(PDF)
    ここから誰でも読めます。是非、お読みください。
  2. 斎藤洋三:「スギ花粉症の発見・命名」特集 アレルギーと免疫学 - 日本免疫学会 JSI雑誌 VOL.12 NO.1 2004年4月(PDF)
  3. 斎藤 洋三:7.花粉症 日本内科学会雑誌 vol.91, no.9, pp.2627-2629, 2002
  4. 『日本植物の花粉』(廣川書店)1956年 幾瀬マサ著
    注:幾瀬マサは帝国女子医薬専(現・東邦大)出身の薬学者、植物学者

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-1-1 浜松町ビルディング1階 プラザ 111 内
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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