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心筋梗塞合併症(4) 冠動脈疾患(24)

メディカルコラム

望月吉彦先生

更新日:2017/11/13

「虚血性心筋症」の治療とは

※文章中に医学的な術中の心臓の写真があります。苦手な方はお気をつけください。

虚血性心筋症状態になると、極めて危険なことは前回お話ししました。今回は、虚血性心筋症の治療法についてです。
まずは、虚血性心筋症の治療法について、以下にお示しします。

  • 冠動脈病変への治療:冠動脈バイパス術、PCI
  • 僧帽弁逆流に対する手術
  • 薬物療法:「ベータ遮断薬」や「アンジオテンシン変換酵素阻害薬」などが使われます。ベータ遮断薬が使われるようになり、かなり予後が良くなりました。
  • 人工心臓
  • 左室形成術:Dor(ドール)手術 バチスタ手術など
  • 心臓移植

などがあります。
冠動脈が細くなると普通は「胸痛」を生じます。しかし、糖尿病の方は、糖尿病による神経障害があり、「痛み」をあまり感じなくなります。ですから「ひそかに」病状が進行することがあります。虚血性心筋症まで行かなくても、心不全で救急入院して、初めて冠動脈に狭窄が多発していることがわかる糖尿病患者さんは結構多いのです。これを「無痛性心筋梗塞」と言います。全く痛みの無い心筋梗塞を生じることも糖尿病患者さんの場合は多いのです。気づいたときは、心不全を生じ、高じると虚血性心筋症になります。

カテーテル検査が普及すると、少し珍しい状態が心臓に生じることもあると解ってきました。それは、

  • Stunned Myocardium:気絶心筋
  • Hibernating Myocardium:冬眠心筋

と呼ばれる、少し特殊な心臓の状態です。

「気絶心筋」とは、主に急性心筋梗塞の時に生じます。冠動脈急性閉塞をカテーテル治療などで治療しても、一時的に心臓機能は回復しないことがよくあります。それを「Stunned(気絶)」と称します。一週間から10日、心機能が気絶(=動かない)した状態になりますが、次第に動くようになります。

「冬眠心筋」は、虚血性心筋症と少し関係します。3本ある冠動脈が全て狭窄ないし閉塞すると心臓は自動的に「冬眠」したような状態になることがあります。すなわち、心臓の働きを弱めて酸素、栄養をできるだけ消費しないようにするのですね。自衛現象と言っても良いでしょう。面白い現象です。
完全に心臓の筋肉細胞が壊死したホンモノの心筋障害(以下、ホンモノと略)とこの「冬眠心筋状態」ですが、心室の造影上は似たような感じ(心臓が動いていない)になります。この区別はとても大事です。「冬眠心筋」は、冠動脈血行再建で心臓機能が回復する見込みがありますが、完全に壊死した心筋は冠動脈を再建しても動きは回復しません。
同じように心機能が悪くなっていても、「冬眠心筋」状態ならPCI、冠動脈バイパス術の良い適応となります。冠動脈への血流が良くなると、春に冬眠から覚める熊と同じように、心臓の動きが回復してきます。その見極めはカテーテル検査ではできません。核医学検査が必要になります。
しかし、簡単に見極める方法もあります。それは心電図です。少し難しいのですが、完全に心筋細胞が壊死した場合の心電図と冬眠心筋状態の心電図とを比較するとかなり違うのです。
心電図は今から100年以上前に、オランダのアイントホーフェンが発明しました。それがいまだに十分役立っています。見極めのために、核医学検査は必須です、しかし、核医学検査ができないような緊急状態で判断を下す際、心電図はとても役立つのです。
「冬眠心筋状態」と判断して、冠動脈バイパス術を行うと心機能は回復します。別の道(バイパス)を作って心臓への血流が回復したことにより、心機能が正常になるのです。私自身、初めて「冬眠心筋状態」の患者さんの手術を行い、実際に心機能が良くなったのを見て、心の底から心臓の神秘に感動しました。

逆に「冬眠心筋状態でない=心筋が元に回復する可能性は少ない」と判断されたら、左室形成術や心臓移植手術が適応となります。左室形成術にはいくつかありますが、有名なのはバチスタ手術です。この術名はテレビや映画になりましたので、皆さんも耳にしたことがあるかもしれません。ブラジル人心臓外科医の Randas Batista ランダス・バチスタ先生が開発した手術です。また、南米人ですね。心臓治療というと南米の先生が良く登場します(冠動脈バイパス術の創始者はアルゼンチン人のファバロロ、パルマ-シャッツステントの開発者のパルマもアルゼンチン人です)。
心筋梗塞を繰り返し、虚血性心筋症となると心臓は拡大します(図1を参照ください、普通の倍くらい大きくなります)。この拡大した心臓の筋肉を切り取って、小さくするのがバチスタ手術です。

図1:バチスタ手術のイメージ
図1:バチスタ手術のイメージ
拡大した心筋の一部を切除することで心室壁にかかる張力を減少

バチスタ手術は、物理学の法則にのっとって考案されました。その物理法則はラプラスの法則【Laplace's law】です。バチスタ先生は心室を球体と仮定して、ラプラスの法則が適応できるのではないかと考えたのですね。
ラプラスの法則とは【球体の壁への張力は心室内圧および内径に比例し壁の厚さに反比例する】という法則です。要するに球体が大きく(内径が大きくなる)なるほど、球体にかかる張力が大きくなるのですね。拡張型心筋症、虚血性心筋症で心臓が大きく拡大してくると、心臓の壁にかかる力が大きくなる、そうなるとさらに心臓が大きくなる→さらに心臓が拡大するという悪循環におちいる。それを食い止めるためには心臓内腔を小さくすれば良いとバチスタ先生は考えたのです。心室内腔を小さくすれば心臓の壁(心室壁)への負荷が減ると考えたのです。しかし、この術式は長期成績が芳しくなく手術死亡率も高かったため、実は今はでは殆ど行われていません。物理法則だけでは、解決できなかったのですね。

一方、あまり一般的には知られてはいませんが、バチスタ手術の前に開発され今でも行われているのが、モナコ公国の心臓外科医 Dor先生が開発した「Dor(ドール)手術」です。 この手術は心臓の中に壁を作る手術です。

図2:Dor手術のイメージ
図2:Dor手術のイメージ

※以下、心臓の写真があります。苦手な方はお気をつけください。

図3:Dor手術写真
図3:Dor手術写真

図3は、心臓の中に特殊な膜を用いて、Dor手術を行っています。しかし、Dor手術は心臓の壁の一部の動きが悪くなったときにしか行えません。全体の動きが悪くなる心筋症になってしまうとこの手術の適応はありません。

そうなると、次は、人工心臓の装着か心臓移植しか治療手段がありません。人工心臓は日進月歩です。今でも様々な人工心臓が開発されています。心臓移植は日本では1999年に再開され、1年間に40-50件しか行われていません。心臓移植を必要とする患者さんの数からすると一桁違います。難しい問題です(注:再開というのは1968年札幌医科大学において和田寿郎医師による日本初の心臓移植が行われていたからです。この心臓移植にはさまざまな問題があり、以後30年以上も日本では心臓移植が行われなかったのです)。
心臓移植に比して、人工心臓はハードルが低いので、心臓移植を受ける患者さんの9割は「既に人工心臓をつけて、移植を待っている」という状態です。

心臓移植の適応となる病気のうち、特発性心筋症は防ぎようが無い病気です。「特発性=原因不明」です。しかし、虚血性心筋症は防ぎようがある病気です。
リスクファクターとなる、「喫煙」、「糖尿病」、「高血圧」、「肥満」、「高脂血症」などはコントロール可能です。

今回で、長く続きました「冠動脈疾患」についてのお話は終了とします。
次回は、「冠動脈疾患の追補」と題して、珍しい患者さんをお目に掛けようと思います。
私が行った「極めて特殊な病状を呈した冠動脈疾患患者さん」に対する世界初の治療成功例です(“The Annals of Thoracic Surgery”という雑誌に掲載されました)。 お楽しみに。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-1-1 浜松町ビルディング1階 プラザ 111 内
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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